あらまほしき研究者~第3話 英才教育  2010/07/01

 ワールドカップの時期にあわせて書きたいテーマがあった。日本代表はなぜ勝てないか?それは英才教育がないからだと。しかしながら、国民の予想を大いに裏切る形で日本代表は善戦した。このため、いささか書きにくくなってしまったが、この機会を逃すと4年後になってしまうので続ける。

 日本では「サッカーの神様」といわれるジーコは14歳の頃、身長1m50cm、体重30kgという体躯だったため、テクニックは抜群ながら将来性が懸念されていた。そこで、彼の所属チームだったフラメンゴでは「肉体改造計画」を作り、医師の監視下、1日5食を摂り、筋トレとホルモン注射などを効率よく行なった結果、競り合いに負けない強靱な体を手に入れた。彼の活躍はそこから始まる。また、現在、世界でもっとも輝いているプレーヤー、アルゼンチンのメッシも11歳の時に成長ホルモンの分泌異常の症状が発覚、治療なしでは身体が発達しないと診断された。スペインのFCバルセロナは彼の才能を認め、13歳のメッシに対して治療費を全額負担することを約束し、彼の家族はバルセロナに移住した。このため、今回のワールドカップ開催前、メッシはアルゼンチン人か?と物議を醸し出した。この2人は周りが計画的に造ったスーパースターといえる。

 一方で、日本のある有名なプレーヤーを特集した番組を見ていたところ、彼の小中学校時代の話が紹介された。「小学校で1m70cmを超えていて、スピードもテクニックも際立っていた。チームは連戦連勝、彼自身、点を取るのが楽しくて仕方なかった。」と。それは楽しかっただろうが、一方で、あまりに能力の違う相手と競っても得るところがないとも言える。能力のある子を集めて切磋琢磨させたほうが、更に伸びていたに違いない。

 メッシの所属するFCバルセロナは若手育成のための下部組織「カンテラ」がある。世界中からの有望な子供(8歳以上から)が集まり、寮に住み込み、快適な環境でサーカーの練習ができる。もちろん、学業も怠ることはなく、成績が悪い子は退寮させられるとのこと。今回、成績が悪かった(というよりも仲間割れした?)フランスには国立のサッカー学院がある。肉体改造までするかについては賛否両論あるだろう。しかし、若い頃から系統的に育成するようなシステムがある国とそうでない国とでは歴然とした差がでるだろう。

 さて、長い前置きになってしまったが、このコラムでサッカー談義をする気は毛頭なく、敵を増やさない程度にさりげない主張がしたいだけである。研究者・技術者も若い頃からの英才教育で育てるべきではないかと。すでに知られていることを理解する能力と、わかっていないことを解明する能力とは違う。また、手先の器用さや慎重な性格などは大学受験が終わってからの歳では身に付かない。イヤな表現ではあるが、革新的な発明や発見は一握りの天才によって生まれる。そういう一握りの天才をいかにして発掘し、育てるか?技術立国日本にとっては重要な課題であろう。

 サッカーについては日本は2006年からJFAアカデミーと称して英才教育を始めたようである。日本の文化として、エリートを選抜して育てるという考えには多くの反発があるだろう。しかし、世界と戦うためには必須の手段と考える。4年後が楽しみだ。