あらまほしき研究者~第4話 熱意というオーラ  2010/07/01

 「第7回TXテクノロジー・ショーケースinつくば2008」が一昨年、産総研で開催された。このイベントは、つくばにある研究者・技術者・高校生が、最新の研究、成果、アイデア、技術を持ち寄り、相互に披露し交流することを目的としている。ポスターによる発表が主であるが、それに先立ち116件のポスター発表すべてについて、それぞれ1分間で説明するというオープニングセレモニーがあった。私は所内という油断もあって、ラフな服装で会場に行って驚いた。私以外は全員スーツではないか!着替える時間もないので、仕方なく覚悟を決めて話し出した。主催者側の江崎玲於奈さん、当所の理事、OBなど見たことのある方が会場に・・と感じつつ、「やばい!そろそろ1分だ!」と慌てて終了。反省しきり、冷や汗の発表だった。

 その後、本番のポスター発表に移り、これについては無難に対応していた。すると、主催者の方が訪ねてきて、「あなたの1分間プレゼンは表彰対象になりました。夕方の表彰式に出て頂きたい。」とのこと。「マジで?!ジーパン姿だったのに」と思いつつ、ここはやはり・・と家に戻り、スーツ姿に変身し、表彰式に臨んだ。頂いたのは「ベスト熱意」という賞だった。そんなにあぶらぎって話したかなという気持ちの反面で、私らしさを評価して頂いたようでうれしくなった。

 上司は誰よりも仕事に対して熱意を持たねばならないと私はつねづね思っている。上司にやる気がなければ部下のモチベーションは更に下がるだろう。熱意というオーラは一朝一夕で身に付くものではない。長年の研鑽が必要だ。また、そのオーラは一瞬で感じ取ることができる。1分も要らない。今までで一番、巨大なオーラを感じたのは、前理事長だった。お会いした瞬間に風が吹いているのではと思うほどのすざましいオーラだった。オーラには色があるらしい。上司である我が部門長も色は違うが、巨大なオーラを感じる。特に今年7月は猛暑の中、分野違いの爆発研究関係でご尽力頂いている姿を拝見して「ベスト熱意」と感じた。あのお歳でここまで頑張れるとは・・まさに脱帽!部下もしっかりしなければ。

 熱意というオーラは学校の先生にも必要だ。特に高校の先生。教える側が内容を面白いと感じなければ、教えられる側は決して興味を持たない。安易に大学受験問題の解法を教えるのではなく、学問の神髄を伝授して欲しい。私が生まれて初めて出会った熱意オーラの持ち主は高校の化学の先生だった。温厚で博識な先生で化学のことは何でもご存じでどんな質問でも理路整然、丁寧に教えて頂いた。私が今日、化学で身を立てることができたのは先生の薫陶によるところが大きい。そして、私が「天命」などという非科学的なことを言い出す一つの理由は、その先生の前職が爆発研究者であったという事実である。授業中に居眠りする学生が増えてくると、「私は風船爆弾の開発に携わった」とか、「ベンゼンのすべてをニトロ化したヘキサニトロベンゼンを作りたかったのだが、ペンタニトロベンゼンまでしかできなかった」など、面白い話で気分転換して頂いた。私が大学卒業後、先生の奥様に問い合わせたところ、高校の先生になる前はあの有名な「陸軍登戸研究所」に務めており、爆薬の研究をされていたとのこと。戦時中、この研究所には精鋭の研究者が集まっていたようである。ただ者ではないわけだ!産総研の図書室にも先生の著書を見つけることができた。高校の先生が元爆発研究者、大学の卒論選びでジャンケンに負けて爆発を研究するようになり、現在に至っているなんて・・話ができすぎている!もしかしたら、(流行語になること必至であるが)「来世も再来世も」爆発の安全研究をしているかもしれない。