あらまほしき研究者~第7話 初めての国際会議招待講演  2010/11/01

 10月22日(金)、初めて国際会議での招待講演を行った。これまでにも招待講演と銘打ったものをやったことはあるが、いずれも名ばかりで旅費はもちろん、参加費までとられるようなものだった。しかし、今回は旅費、滞在費、参加費(講演料はなし)は主催者持ちであり、おまけに空港までの出迎え付きという結構な待遇であった。「成り上がったもんだね!?」と感激しつつ、参加に至った経緯と感想を書かせて頂く。

 私は今、安全工学会(JSSE)の国際交流委員長を拝命している。これは国際経験が豊富だとか、英語が得意ということではない。むしろ、まったくの逆である。私は実験室に引きこもっていたいので、国内外の出張は嫌いだ。また、国外出張や留学を命じられることがないように、意識して英会話を勉強しない(!?)という戦略をとってきた。この戦略はこれまではうまくいっていた。しかし、さすがにこの作戦は通用しなくなり、「これでもくらえ!」的に最も不似合いな国際交流委員長に選ばれた。昨年はAPSS2009(アジア太平洋安全シンポジウム)の実行委員長を務めさせて頂き、今回はJSSEの代表として国際会議に参加することになった。大変に光栄なことと感じている。

 参加したICAP2010(第1回 事故防止に関する国際会議)について簡単に紹介する。この会議は2008年に提示された「労働安全衛生ソウル宣言」の実施をテーマにしている。主催者はKOSOSとKOSYA(韓国産業安全衛生公団)であり、国際的な諮問機関はICOH-SCAPである。ICOHは和訳すると「国際職業衛生コミッション」であり、SCAPはICOHの下部組織で「事故防止科学委員会」と訳することができる。IIRSM(リスクと安全管理の国際研究所)という機関も関係しているらしい。これらの国際機関は労働者の安全という領域のため、最上部にはILOとWHOが関わっているようだ(申し訳ないが、この辺は私のいつものお付き合いとは違うので、相互の関係が良くわからない)。

 特別講演の主題は「日本の産業安全研究機関の紹介と国際交流HubとしてのJSSEの役割」とした。韓国ではKOSOSとKOSYAがほとんどの領域の産業・労働者安全関係の研究を行っている。これに対して、日本では各省庁が管轄する様々な公的研究所が各自のミッションに従った研究をしている。また、JSSE以外の学協会でもそれぞれの研究領域で安全というテーマを取り扱っている。その違いを説明した上で、種々の産業安全研究の国際的な窓口としてJSSEがその役目を果たすことができるという抱負を述べた。また、研究機関紹介の中で、我々の爆発安全研究の話題を盛り込んだ。特に安全研究の必要性を主張するために、ある化学物質の知られていなかった爆発危険性の研究例を挙げた。そして、「事故を防止するためには、真相解明こそが大事!」という明確な主張をした。

 さて、参加した感想だが、「英語下手な私でもアジアなら大丈夫!特別講演なら、なおさらだ」と感じた。お互いが英語圏ではないので、流ちょうな英語を期待されない。また特別講演なら、堂々と原稿を見ながら話しても不自然ではない。字幕をたどってカラオケを歌っているようなものだ。自己満足かもしれないが、うまくできたと思う。もちろん、ここに至るまでには、どうすれば大役を務められるかを十分に検討し周到な準備をした。音読は5回以上行い、その都度、時間を計った。苦手を克服するためにはそうした努力が必要だ。発表直後、「場数を積めば国際派になれるかも?」と思った。しかし、帰国して数日経つと、「やっぱり、実験室ヒッキーが良い!」と引きこもってしまう。ともあれ、良い経験をさせて頂いた。KOSOSおよびJSSEに感謝したい。