あらまほしき研究者~第12話 カラオケ  2011/11/01

 今年10月に韓国のチェジュでAPSS2011(アジア太平洋安全シンポジウム)が開催された。近年、私は安全工学会の国際担当として韓国との交流に努めており、今回も日本の世話役として参加した。今回は震災があったこと、日韓共に経済状況が悪化していたことなどにより、開催準備が遅れた。それでも精力的な勧誘により、日本から約60名の参加者と約40件の研究発表を集めることができた。厳しい状況下で結果を出すことができ、ホッとしている。韓国側にも日本からの大勢の参加に感謝頂き、シンポジウムの懇親会後にお互いの代表十数名で親睦パーティーを行うことになった。連れて行かれたのはカラオケボックスだった。ここで、ちょっとしたハプニングがあった。第12話では、こういう場での「あらまほし」について感じたことを書いてみたい。

 話はさかのぼるが2007年の釜山では、まず大御所の先生から歌うことになり、イントロの部分で拍手!いよいよ歌が始まると思いきや・・絶句!なんと字幕がハングル文字だ。どうするのかと固唾を飲んだその瞬間、大御所先生は「ラーララー」とメロディーだけを歌い出した。さすがは大御所先生。修羅場をくぐってきただけのことはある。私は自分の番が来るまで「字幕なしで歌える曲」を頭の中で探して、十八番の「酒と泪と男と女」を選曲した。当時、自分のポジションからして一曲歌えばミッションコンプリートだった。大御所先生の前座でなくて良かった!研究者たるもの、「字幕なしで歌える曲」を持っておきたいと感じた。

 今回のチェジュでは日本語の字幕付きと記されている曲が少しあった。4年の進歩というところか。それでも曲数が少なく、持ち歌を探していると、韓国の方が「テレサテンは有名だが、五輪真弓の『恋人よ』も東南アジアでは人気がある。歌ってくれないか?」とリクエストされてしまった。さすがにサビのところは知っているがイントロのごちゃごちゃしたところはわからんな・・と思う間もなく、曲を入れられてしまった。いまさら「曲を変えてくれ」などという野暮なことを言えるはずもない。仕方なく前に行ってマイクを握り、長いイントロの間、「どんな出だしだったっけ?」と考えていた。すると、「妙にテンポが遅い」と感じた韓国の方がキーを3つばかり上げてしまった。「ちょっと!バラードなんだからゆっくりなのは当たり前だろ!そんなにキー上げて、どうしてくれる!」と思い、元に戻そうとしたところ、ボタンがすべてハングル文字表記だ。どれを押して良いかがわからない。そうこうするうちに歌が始まった。「わぉ結構、覚えている。これならいける!が、サビのところで声が破綻しないか?」と不安を抱えながら歌い始めた。サビのところはかなり無理をしたが、歌いきることができた。普段はまじめそうに見えるDr. Matsunagaの苦しそうな歌には十分に親近感を持って頂いたようだ。ミッションコンプリート!

 帰国後、改めて原曲を聴いてみた。悔しい。通常のキーならば十分にうまく歌える曲だった!「歌はそこそこ上手」と自認している私にはとても不本意な出来事だった。次回の国際学会でチャンスがあれば、再チャレンジしたい。海外出張する皆さん、現地で人気のある日本の曲を覚えていくのが「あらまほし」だ。また、こういう「抜き差しならない場」に出くわした時、プライドとか知性とかを捨てられる「スイッチ」を持つことが、もう一つの「あらまほし」であろう?韓国安全工学会の方達と交流するのは4回目だが、こういう経験が重なると「トモダチ」になれる。人前で歌えない研究者の皆さん、ぜひ、そういう「スイッチ」を持ちましょう。大丈夫!イントロと最後の拍手以外はあなたの歌など誰も聴いていないのだから。最後に・・念のため申し上げたい。私がカラオケをやる回数は2年に1回程度だ。嫌いではないのだが。